年収300万円なんですけど、住宅ローンって組めますか!?
僕が銀行員をやっていた頃、こんなお問い合わせもときどき受けていました。
そもそもの申込基準で撥ねてしまう銀行も中にはありますが、結論としては、内容によっては年収300万円でも住宅ローンを組むことは可能です。
ただし、率直にいってかなり劣勢であることは間違いありません。
そこで、このページでは年収300万円の住宅ローンに対する審査目線、生活実態、取り組むための工夫を紹介していきたいと思います。
このページの目次
年収300万円では、何の工夫もなしに住宅ローンを借りるのは極めて危険!
まず実態を把握するために、年収300万円で住宅ローンを組んだ際のシミュレーションを行ってみましたのでご欄ください。
審査目線、生活実態の2つの視点から、結果をそれぞれ紹介していきます。
年収300万円の住宅ローン審査はこう見られる!
正直言いますと、「年収300万円」という言葉を聞いただけで、かなりネガティブな印象から審査はスタートすることをご念頭においてください。
審査の細かい話は審査基準について書いた記事をご参照していただくとして、
このページでは年収300万円という数字だけに着目して定量的なシミュレーション結果を見ています。
住宅ローンの審査で、年収が判断根拠となるのは主に「その年収で月々の返済負担に耐えられるか?」という視点です。
また、住宅ローンの審査では「最終的に返済し切れるだけの返済力が申込人にあるか?」という視点で、60歳を迎えたときの住宅ローン残高を確認しています。この定年時残債が大きいか小さいかを測るべく、退職金や毎月の支払い余力を見ており、その参考としても年収は審査の材料になっています。
年収300万円をベースに、借入金額、借入期間、借入時の年齢を次の通りにケース分けして、ケース毎にそれぞれ「返済比率」、「キャッシュフロー」、「定年時残債」を算出してみました。
- 借入金額:2,000万円、1,500万円、1,000万円
- 借入期間:35年、30年、25年、20年
- 借入時の年齢:30歳、35歳、40歳、45歳
その結果がこちら↓です。

表面的な審査基準は、年収300万円の場合「返済比率30%以下」となっていることが一般的です。
まずこの「返済比率」を見ると、借入金額1,500万円でも35年で組んだ場合には26.6%、30年で組んだ場合には28.6%と、ギリギリのラインになっています。一応基準内ではありますが、印象としては厳しい水準です。
借入金額1,000万円だと20%前後となり、許容できそうな水準になってきます。
次に「キャッシュフロー*」を見てみると、借入金額1,500万円であっても月15万円未満となっており、普通に考えて苦しい数値です。独身の一人暮らしであっても生活に窮する水準と見えます。
* キャッシュフロー=税金やローン返済額を支払ったあとに残る月々の生活費
「キャッシュフロー」目線では、借入金額1,000万円でも杓子定規に言えばアウトでしょう。ただし、生活実態に鑑みてギリギリOKでは?と個人的には考えています。恐らく賃貸の家賃も同程度の水準ではないかと想像されます。
最後に「定年時残債」ですが、本来この指標は退職金をアテにして返済可能な金額がどうかを計る指標です。ところが、年収300万円の場合、退職金の支払い自体が期待されていないでしょう。
そして、恐らく60歳で定年退職しても、引き続き何らしかの形で仕事をして収入を稼いでいく方がほとんどかと思います。
とした場合…
「定年時残債」で借入多寡を判断するというよりも、「完済時年齢」を基に適切な借入期間に区切るといった考えになっていくと想定されます。
現実的に考えて、65歳~70歳程度までは元気に働かれる方も多いので、「完済時年齢」もそのレンジに設定されやすいと思います。
借入時の年齢から計算して、このレンジに収まるような借入期間の設定がまず先になされます。
たとえば、40歳での申込の場合、まず借入期間の観点を審査され35年は不可、30年あるいは25年までの期間短縮が条件とされ、短縮した期間での返済額シミュレーションで返済比率やキャッシュフローに問題がないかを判断する様な流れになります。
期間が短い分、月々の返済負担が重くなるので、ハードルが上がりますね。
以上から、年収300万円の住宅ローン審査では1,000~1,500万円までが借入上限額と想定されます。ただし、定量的な目線ではこれでも審査が通るかどうか際どい判断となります。
僕の感覚では、大手行はかなり消極的な姿勢です。
営業的な目線でも、金額が小さいとリターンが少ないので、窓口担当者のモチベーションも低いはずです。借入希望額1,000万円であってもバッサリ謝絶にしてくるかもしれません。
一方、地元の信用金庫などは、年収300万円の世帯がまさに手を差し伸べたい層であり、多少の無理であっても給与口座設定などを条件に、前向きに考えてくれる確率が高いです。
年収300万円で1,000万円の住宅ローンを組んだ場合の生活実態
続いて、年収300万円で住宅ローンを組んだ場合の実際の返済金額、生活費について触れていきます。
住宅ローンの審査では「審査金利」を基にシミュレーションがなされていますが、
実際の住宅ローン金利はもっと低いです。
現在の金利相場を基に、1,000万円を借りた場合の生活実態について考察してみました。
「審査金利」…住宅ローンの審査において使用される金利。金利上昇のリスクなどの踏まえ、3.0~4.0%程度で設定されている。金融機関毎で審査金利は異なるが4.0%を採用しているところが多い(先ほどの表も4.0%を採用)。なお、フラット35の場合、審査金利は当該月の実行金利(現在だと1%台)が採用されるので、返済比率の計算などで有利に働く。
年収300万円の月々の手取り金額は21万円
年収300万円の場合、税金等を引いた手取り金額は約255万円と言われています。
実際には、月給とボーナスとに分かれてもらって貰っている人がほとんどでしょうが、単純化のために全て月給でもらったとすると月々の手取り金額は以下の通りになります。
- 2,550,000円÷12ヶ月=212,500円/月
この約21万円を基に、食費や生活費、教育費、交際費などを支払っていく形になります。
住宅ローンの支払い金額を抑えないと、生活自体が厳しくなる・・・
住宅ローンを借りると、賃貸の家賃支払いの代わりに住宅ローンの返済負担が毎月襲ってきます(別途、固定資産税の支払いや修繕費の積立なども発生します)。
仮に1,000万円を借りた場合に、手許に残る金額を見てみましょう。

金利は金融機関毎で異なるのと、変動金利/固定金利で変わってくるので複数パターンを計算しました。
固定資産税や修繕積立金などにかかる金額を月2万円と仮定すると、手許に残る金額は14~16万円となる計算です。
将来のための貯金や、家族旅行に充てる資金の捻出はかなり厳しい状況かといえるでしょう。
住宅ローン減税による還付金で住宅ローン残高の1%が戻ってくる!?
住宅ローン減税(住宅借入金等特別控除)の要件を満たせば、新規借入から10年間は住宅ローン残高の1%分が、所得税および住民税から税額控除となります。
借入残高が1,000万円であれば10万円が年ベースで戻ってきますので、かなり嬉しい制度ですね。
ただし、住宅ローン減税には上限額があるので要注意です。
- 所得税は納税額の満額まで
- 住民税は納税額の満額or13.5万円の低い方まで
物件要件に加えて、上記の様な上限が定められています。
扶養家族が多いと、住宅ローン残高の1%が控除上限額を超過する可能性も出てきますので、住宅ローン減税をアテにする際にはしっかりとシミュレーションを行ってから借入金額を決定しましょう。
- 金融機関の審査目線では借入金額1,000万円~1,500万円程度が上限と想定されるが、各機関毎で見方は大きく分かれる。
- 生活実態に目を向けると、借入金額1,000万円であっても月々の生活は14~16万円/月と苦しい状況。
- 住宅ローン減税は、自身の所得、扶養控除で上限が変わってくるので、確認してから借入金額を決定したい。
住宅ローンの返済が滞るとどうなる?
年収300万円の場合、上記の通り借入金額を1,000万円に抑えても生活実態はギリギリとなります。何らしかの理由で収入が一時的にでも入らなくなれば、即座に返済遅滞につながり得ます。
では、住宅ローンの返済が滞るとどうなってしまうのでしょうか?
1度や2度の返済遅滞であれば金融機関から連絡が入るくらいで終わりますが、
3ヶ月連続で返済が滞れば、まず自宅が差し押さえとなってします。
そして、金融機関が競売や任意売却で資金に変えて返済に充てられるのですが…
低価格の不動産の場合には、売却資金で住宅ローンを返済し切れない可能性も高いです。
そして、最終的に残債だけ残ってしまうと、行き着く先は“自己破産”です。
年収300万円で住宅ローンを借りるための前提条件
ここまでは単純に、年収300万円という定量的な数字だけに着目してきましたが、
実際の住宅ローンの審査では、定性面や担保要件なども加味した総合的な判断がなされます。
年収がいくらであっても審査の進め方は変わりませんが、年収300万円の場合、初めから瀬戸際の審査となりますので、他に減点要因があると謝絶となってしまう可能性が非常に高いです。
そこで、年収300万円でも住宅ローンを借りるために必要な前提条件をいくつか紹介します。
前提条件➀:他に借入がないこと
住宅ローン審査では、収入と返済のバランスを見るにあたって、対象の住宅ローン以外の返済額も合わせて判断がされます。
たとえば、カーローンや教育ローンなどのローンがもしあれば、その分返済負担が増します。
借入金額1,000万円であってもギリギリの状況なのに、他の借入負担も上乗せになったら、間違いなく返済できないという判断になります。
もしその他借入がある場合には、必ず完済後に申込するようにしましょう。
前提条件②:自己資金(頭金)を一部入れていること
余程のことがない限り、年収300万円でフルローンは不可能です。
大手行に至っては絶対にあり得ないと言っても良いくらいです。
最低1割程度は自己資金を入れて、審査に挑むようにしましょう!
逆にいうと…
自己資金を3割以上投入できるのであれば、年収300万円であっても多少無理の言える金額を申込できます!
前提条件③:購入物件の流動性が高いこと
住宅ローンでは購入する物件(=自宅)が担保となりますが、その物件の流動性が高いことは担保を評価する上で非常に重要となります。
「流動性が高い」というのは、簡単にいうと、他にも購入したいと考える人がいるかどうかです。
売買価格が低い物件の場合、自分からしたら欲しい物件であっても、
世の中的にはニーズが低いということも多くあります。
その場合には、担保が原因で審査に通らないという事態にもなり得ますのでご注意ください。
年収300万円で満足のいくマイホーム購入を実現するためには?
しんどいのはよく分かったけど、ちゃんとしたマイホームが欲しいんだ!
という方向けに、年収300万円でももっと多くの借入金額を調達するための方法についてまとめました!
方法➀:共働きで収入を増やす
一番現実的なのがこの方法です。
夫一人の収入では返済負担が大きいのであれば、共働きにして収入を増やせば良いのです。
住宅ローンには「ペアローン」や「収入合算」というスキームがあります。
「ペアローン」というのは、夫婦それぞれが債務者となり、2本の住宅ローンでマイホームの購入資金を調達する方式です。
住宅ローン減税は夫婦それぞれで適用となるので、その恩恵を享受しやすくもなります。
「ペアローン」の場合には、両名ともが審査を受けることになるので、妻(家計によっては夫)も正社員でないと成立し難い方式です。
また、大手行ほど収入の安定性について見方が厳しいので、メイン登場人物が2人出てくるこの方式は敬遠されがちです。
一方で、「収入合算」というのは、夫(または妻)を主債務者とし、妻(または夫)が連帯保証人として収入を補完する形式です。
主債務者の年収に、収入合算者の年収の2分の1を加算し、審査年収とするのが一般的です。
「収入合算」の場合にはあくまで債務者は一人なので、ローン減税を受けられる対象はその一人だけです。
契約社員やパートであっても、収入合算者になれる場合がほとんどです。
実際に、いずれかの形式を取って、年収300万円でもそれなりの金額の住宅ローンを申込する家計は多くいらっしゃいます。
方法②:貯金を金融機関に開示する
既に貯めている(あるいは贈与などで受け取った)資金がなければ実現できない方法ですが、貯金を金融機関に開示することの効果は大きいです。
できれば給与振込口座としてその金融機関を指定し、普通預金に入金された状態をアピールしたいですね!
金融機関からすると、普通預金の残高が多くあると、月々の収支が苦しくなった場合でも返済できる原資があるんだなと安心ができます。
もちろん、預金があればいくらでも借りれる訳ではありませんが、
実は想像以上に効果がある方法です。
当然ですが・・・自己資金(頭金)として物件購入費に使えるのであれば、その分借入金額を小さくした方が断然良いです。
方法③:フラット35で調達する
生活実態的には変化がないので、個人的にはあまりオススメしていませんが、住宅金融支援機構と民間金融機関が共同して融資を行う「フラット35」を活用すると、融資金額を伸ばしやすいです。
これは簡単にいうと、審査が通りやすいからです。
「フラット35」では審査金利が当月の実行金利(今だと1%台)ですので、通常の審査金利(3.0~4.0%)と比較して、返済比率の計算が優位になります。
また、審査も形式的に行われるので、収入の安定性がどうとか、担保評価がどうとかといった理由で否認されにくいのが実態です(全くないわけではありません)。
年収300万円の住宅ローンまとめ
以上、年収300万円で住宅ローンを組む場合の、審査目線、生活実態、取り組むための工夫などをお伝えしてきました。
簡単にまとめると、
- 年収300万円で住宅ローンを組むのは、1,000万円でもリスクあり!
- 「共働きで世帯収入を増やす」「貯金を貯めて自己資金を多く投入する」といった工夫が必要!
といったところが要点となります。
また、何度も紹介している通り、金融機関毎で審査目線はかなり異なります。
大手行をはじめ、審査は厳しい傾向にありますが、審査目線が特にブレやすい年収ゾーンですので、取り組みOKな金融機関、金利が低い金融機関を探すべく、複数の金融機関への事前審査申込は必ず行いましょう!
