住宅ローンを申込しても、1~2割程度の方は審査に落ちてしまう方がいらっしゃいます。
そして非常に多い疑問が、
なぜ住宅ローンの審査に落ちたかが分からない!
です。
審査落ちの理由は様々ですが、このページでは、僕が銀行員時代に携わった幾多の住宅ローン案件のうち、代表的な審査落ち理由とその対策について述べたいと思います。
住宅ローンの審査落ちは「あなたにお金を貸しても返ってくる気がしません」と言われているのと同義
ちょっと厳しい言い方ですが、住宅ローンの審査落ちは、金融機関からこのように↑思われていることを意味します。
金融機関もビジネスをやっており“金利”という利ザヤを稼ぎたいので、元々は「住宅ローンを貸したい!」という思いがあります。
それでも「No!」という回答になっているのは、「貸しても損をする可能性が高い」と金融機関が判断したからです。
どこにそう思われる理由があるかは本当に様々なんですが…
大別すると以下の3通りになります。
- 収入の安定性と、担保が見合っていない
- 借入金額が過大
- その他
それぞれの理由について、より細かく見ていきましょう!
理由➀:収入の安定性と、担保が見合っていない
「これが真実!住宅ローンの審査基準を“現場”視点で大暴露!」の記事でこういった説明をしています。
- 住宅ローンは自宅担保をベースに、万が一にも損をしないことが大前提
- 物件購入価格の満額融資の場合、数年後、数十年後には担保物件を売却しても全額を回収できない
住宅ローン(というより金融機関の融資)は、収入の安定性に応じて、必要な担保を設定します。
名称を覚える必要はありませんが、担保評価額に対する借入金額の割合を業界では“担保掛目”と呼んでいます。
担保掛目=借入金額÷担保評価額
申込人の立場では「返済負担がどのくらいか?」という観点から住宅ローン審査を考える方が多いですが、金融機関の立場では、実はこの担保掛目を先に考えるのが一般的です。
そして、収入の将来的な安定感が低い程、この担保掛目は厳しく見られます(低く設定する必要があります)。
どれだけ現在の返済負担が少なくても、何年、何十年もその収入が続いているか怪しいと判断されると、審査落ち、あるいは減額となってしまうのです。
では、具体的にどんなケースの場合、担保掛目を厳しく取る必要があるのか?審査落ちになってしまう可能性が高くなるのか?を具体的に紹介していきたいと思います。
審査落ち理由❶:中小企業勤務で大手行にフルローンを申し込んでいる
フルローンでなんか文句あんのか!
と言われてしまいそうですが、大手行(ネット銀行、メガバンクなど)ではフルローン(物件購入価格と同額の借入)はまだまだハードルが高いです。
住宅ローン競争が激しくなってきて、業界全体的に審査は甘くなってきていますが、大手行のフルローンに対する融資規律はあまり緩んでないのが実態です。
収入の安定性を見るにあたっては、たとえば35年のローンであれば「35年後もその会社は存続しているの?」というのが融資の考え方です。
失礼な話、名だたる大企業でさえそんな先の時代まで存続しているか分からない中、中小企業が倒産してしまう可能性は決して低くありません。
自分の勤務先が大企業でなければ、少なくとも1割程度は自己資金を入れるか、地方銀行に申込するのが妥当です。
審査落ち理由❷:勤続年数が短い
住宅ローンは、申込基準に「勤続年数3年以上」という条件が付いている場合が多いです。
この人は、途中で会社を辞めないか?
という視点で、勤続年数はチェックされています。
10年以上同じ会社で働いている人と、2年しか働いていない人を比べたら、
圧倒的に前者の方が今後も長く同じ会社に勤めそうですよね?
金融機関側からすると、定年までその会社で働いてもらえるのが理想です。
そういった意味では、申込基準は3年以上となっていますが、6~7年くらいは勤めてないとちょっと不安があります。
3~4年ぐらいだと、社歴の長い会社にお勤めであってもフルローンは過大と判断される可能性は大いにあります。
審査落ち理由❸:転職回数が2回以上ある
「勤続年数」とも近い考えですが、「転職の回数」も今の会社に今後も勤めていくのかを見るモノサシになります。
2回以上転職をしている人は、“転職癖”が付いておりまた辞める可能性が高いと見なされやすいです(僕もそう思っています)。
これが同業種でキャリアアップとしての転職であれば話は別ですが、
異業種転職を繰り返している場合だとかなり心象が悪いです。
理想は「社会人歴=今の会社の勤続年数」で、もし現在の勤続年数が短いのであれば、数年待つのが教科書的には望ましいと言われています。
ただし、勤続年数、転職回数は数値で判断しにくい側面が強く、金融機関毎、もっといえば担当者毎で評価のされ方が変わってきます。
色んな金融機関に申込してみると、それぞれで回答は変わってくるかと思います。
審査落ち理由❹:勤務形態が正社員ではない
正社員ではないと審査に落ちる可能性が高いのは、
話の流れ的にその理由が想像つくかと思います。
現在の収入がいつまで続くのか分からないからです。
“正社員ではない”といっても、色んなケースがあります。
まず、派遣社員や契約社員の場合。彼らの雇用契約は1年毎などになっていることが多く、10年後どういう収入になっているか想像しづらいですよね。パートの場合も同様です。
数年後の収入が予測できない以上、審査でOKは出せないという訳です。
それから、結構多いのが個人事業主の方ですね。どれほど稼いでいても、フルローンでの調達はまず無理です。来年の収入でさえ信用されていません(というより、詳しく審査してもらえません)。
法人成りしている場合でも、社長や役員は同様の見方をされます。
住宅ローンの世界では、サラリーマンの方が評価が高いのです。
あと、芸能人やスポーツ選手などもかなりシビアに見られます。
僕も某プロ野球選手の申込を対応したことがありますが、かなり厳しい見方をされ、結局は借入期間5年上限という条件付の承認になりました。
正社員ではない場合には、相応の自己資金を投入するのはマストとお考えください。
その上で、金融機関毎でどういった申込には審査が厳しい、甘いの差がありますので、複数行に事前審査を申込して様子を見るのが望ましいです。
審査落ち理由❺:年齢が若い
後ほど年齢が高い場合も審査落ちの要因となり得ることを説明しますが、
年齢が若い人も住宅ローン審査では厳しく見られます。
どのくらいの年齢層かというと、20代前半~半ばぐらいの人だと若いと判断されますね。
若いことが不利になる理由は2つあります。
1つは、この先の収入面に不確定要素が大きいこと。20代の人と40代の人を比べたら、どちらが今後の収入が大きく変わる可能性が高いかは一目瞭然ですよね。
もう1つは、「借金を背負うのはまだ早い」と思われること。笑い話にも聞こえますが、結構そう考えてる審査役も多いです。
若年層申込の場合、借入金額の大きさも特に影響しやすいです。
親が土地を持っていて建物の新築代金だけを借りるとか、贈与資金で自己資金の援助が多くあるなどで1,000万~2,000万円程度の申込であればさほど気にならないです。
一方、4,000万~5,000万円ぐらいの新築マンションをほぼフルローンで借りようとするとかなり苦戦します。
審査落ち理由❻:浮き沈みの激しい業界に従事している
勤めている会社や自分が経営している会社の業界も、審査の対象となります。
今後の経済市況次第では倒産してしまったり、給料大幅カットなどになってしまうと、住宅ローンの返済にも当然ながら影響が出てくるからです。
最近、バッドニュースが出ている業界も黄色信号です。
また、急成長している業界も保守的に見られることは間違いないです。
従事している業界については、正直特段対策は取れません。
職を変える訳にもいかないので、自己資金を増やして担保掛目を改善したり、借入金額を抑えてリスクを下げるくらいしかできないです。
審査落ち理由❼:歩合給の割合が大きい
営業職等の仕事で給料に占める歩合給が大きい人も、収入の安定性は高いと言えません。
パフォーマンスの良かった年は年収も高いでしょうが、
不調に終わってしまえば年収が下がり、返済が滞る可能性も出てきます。
歩合給の人は、2年分の源泉徴収票の提出を求められるのが一般的です。
安定感をアピールしたいのであれば、源泉徴収票に加え、毎月の給与明細書を提出すると良いですね。
- 基本給と歩合給の比率
- 歩合給の変動具合
- 歩合給の根拠(1件売ったらいくら歩合で付くなど)
といった部分を把握できると、金融機関の審査担当も安心することができます。
審査落ち理由❽:購入物件が担保として不適格
住宅ローンでは、購入する物件(=自宅)が不動産担保となります。
この担保は、万が一の際に金融機関が売却をし、その売却代金にて住宅ローン残高を回収するためのものです。
具体的には抵当権を設定するのですが、抵当権を設定できない物件も世の中にはあります。
また、抵当権を設定できても処分性に問題がある様な物件もあります。
もしこの理由で審査落ちしてしまった場合には、まずは別の金融機関に相談してみる、あるいは事前審査を出してみるべきです。担保要件も金融機関毎で異なりますので、対応してくれる金融機関があるかもしれません。
どうしても難しい物件であれば、別の物件に切り替えるしかありません。
担保だけが問題なのであれば、物件を変えれば審査には通過します。
審査落ちした金融機関に再度申込をしてもOKです。
審査落ち理由❾:担保評価額が低い
理由❽とも近いですが、こちらは担保不適格とは言わないまでも担保の評価額が低い場合です。
新築マンションの場合はほとんどありません。
- 中古マンション
- 土地購入&住宅新築
の場合に発生する可能性があります。
このケースに該当するときというのは、砕けていうと金融機関の持っているマーケット不動産価格と比べて、購入物件価格が著しく高いんですね。
なので、まずはそもそも購入価格が高い可能性もあるので、値下げ交渉をきちんとすることが大事です。不動産業者経由の申込の場合、物件を紹介している不動産業者は「売買価格が高かったので審査に通りませんでした…」とは絶対に言わないので注意が必要です。
また、金融機関の担保評価額はシステムで機械的に算出しているので、
その担保評価額が妥当なのかは、正直なところ現場で働いていた僕も疑問に思っていたことがあります。
金融機関を変えたらあっさり審査に通過することもよくあります。
理由②:借入金額が過大
以上が、収入の安定性と担保評価額が見合っておらず、審査落ちとなる主な理由でした。
続いて、借入金額が過大であることが理由で審査落ちになるケースを紹介します(審査落ちというより、減額の回答になることが多いと思います)。
考え方としては、⑴月々の支払い負担が過大、⑵定年時残債が過大という2つの側面が見られます。
いずれの場合でも対策は同じで、「借入金額」を減らすことで承認の可能性が出てきます。
審査落ち理由➓:月々の支払い負担が過大
住宅ローンの審査用語で、「返済比率」や「返済負担率」といった言葉があります。
いずれも意味は同じで、収入に占める(その他借入を含む)年間の返済負担金額の比率です(以下の説明では「返済比率」で統一します)。
返済比率=年間の返済負担金額÷年収
- 返済負担金額は利息込みの金額
- 利息は“審査金利”を基に算定される
- “審査金利”は金融機関毎に異なるが3~4%
- 新規に借りる住宅ローン以外に借入があれば(マイカーローンなど)、その返済負担金額も合算する
月々の支払い負担が大きすぎないかを確認するために、
住宅ローンの審査では、返済比率35%以下を承認の目安にしていることが多いです。
ただし、これはあくまで目安であって年収水準や家族構成によって変わってきます。
年収1,000万円の人の返済比率35%と、年収400万円の人の返済比率35%を比べると、返済負担額支払い後の生活費に充てられる金額が全く異なりますよね(年収1,000万円の人の方が余裕があります)。
また、夫婦だけの家族と、子供が3人いる家族では、必要な生活費がは変わってくるはずです(扶養家族が多いほど生活費は多くかかります)。
金融機関によっては、返済比率だけでなく「キャッシュフロー」という概念で月々の支払い負担を確認しているところもあります。
ここで言う「キャッシュフロー」とは、税金と返済負担金額を支払ったあとに手許に残る金額を指します。
たとえば、年収500万円で、税金が100万円、返済負担金額が120万円だった場合、
- 年間キャッシュフロー:500万円-100万円-120万円=280万円
- 月間キャッシュフロー:280万円÷12ヶ月=23.3万円
となります。
こうして算出した月間キャッシュフローが、家族構成を踏まえた必要生活費と比べて、大きいか小さいかを見る訳です。
キャッシュフローの基準はたいてい非公開となっているので、申込人側からは具体的なところは分かりませんが、単純に返済比率が35%以下なら何でもOKという訳ではない点をご理解ください。
審査落ち理由⓫:定年時残債が過大
申込人側からはあまり意識されていないのですが、
実はどこの金融機関もしっかりと見ているのが定年時残債です。
言葉の通り、定年の際に残っている借入金額のことを言います。
この基準に引っ掛かるのは40代後半~50代の申込人が圧倒的です。
先ほど年齢が若い場合には審査に見方が厳しくなると言いましたが、
年齢が高くても別の理由で厳しさが出てくるのです。
住宅ローンはサラリーマンを主に対象とした制度融資なので、60歳になったときのローン残高を審査基準の1つとしている金融機関が非常に多いです。
審査内部では、勤務先や勤続年数を基に退職金の見込金額が弾かれています。
情報がない場合、この見込金額と定年時残債を比べて審査可否が判断されます。
審査落ちになるケースで多いのが、「返済に充てる資金は持っているけど、今は使いたくない」と言って大きな金額を借りようとするケースですね。
この場合、やり方次第では借入金額を減らさなくとも審査を通せる可能性は大いにあります。
1つは、保有金融資産を金融機関にしっかりと伝えること。
預金残高や、運用資金のエビデンスを提出するか否かで印象はかなり変わります。
もう1つは、借入期間を短縮すること。
制度上は80歳近くまで住宅ローンは借りられますが、別に無理に長くする必要はありません。借入期間を10年とか20年に短くすれば、定年時残債を小さくすることができます。
そして、最後にもう1つ。定年時残債に対する審査基準が甘い金融機関に申込すること。
正直僕も、どの金融機関が定年時残債の基準が甘いのか?最近の情報は把握できていませんが、明確な基準を立てにくい項目なので、見方にバラつきは間違いなくあります。これについては、事前審査を複数出してみるほかありません。
理由③:その他
その他、当てはまる人はさほど多くないでしょうが、審査落ちとなってしまう理由にはこんなものがあります。
審査落ち理由⓬:過去の借入に延滞や事故歴がある
個人信用情報に傷があると言われるケースです。
疑わしい場合には、自ら信用情報を取り寄せてみましょう。
もしヒットしてしまっているのなら、残念ながら、高利の住宅ローンを借りるか、履歴が消えるまで諦めるしかありません。
審査落ち理由⓭:購入物件が不自然過ぎる
住宅ローンは自宅のための資金で、自宅が担保になっているから低金利で借りることができる仕組みになっています。
自宅購入には明らかに不自然な場合、それだけで審査落ちとなることがあります。
独身者の戸建購入や、現居住地にも勤務先にも遠い物件の購入などは、
ん?この申込、おかしくない?
と疑われてしまうのです。
ほとんどの申込は納得のいく物件を選んでいますので、
実は奇をてらった内容はかなり目立つんです。
少し特殊な選び方をする際には、しっかりと金融機関の担当者と話をして、理解を得てから事前審査を申込しましょう。
審査落ち理由⓮:妻のみの申込
女性の社会進出が強くなっていると言われながらも、住宅ローン審査の世界ではまだまだ「夫の収入が家計の柱」という考えが根強いです。
妻主体の住宅ローン申込というのは決して否定されはしませんが、
夫が登場してこない場合にはこんな疑いを掛けられます。
夫の個人信用情報に事故歴とかあるんじゃない?
実態は夫の収入からの返済なのに、個人信用情報に傷があってそれを隠すために妻主体にしているんじゃないか?という可能性を強く疑われます。
夫の収入が仮に少なくとも、収入合算者などで連帯保証人として登場すれば、金融機関は信用履歴を確認できますので、何らしかの形で夫の情報も伝えるようにしましょう。
審査落ち理由⓯:夫婦2人で目一杯の借入
いわゆる「ペアローン」という形態です。
実はこの申込パターンも厳しく審査されます。
本人達はそんな気はさらさらないでしょうが、住宅ローン延滞の理由として最も多いものの1つが実は“離婚”だからです。
僕もこの理由で審査を通せなかった(減額となった)案件が非常に多かったのですが、一方、離婚をきっかけに延滞となってしまった案件もいくつか目の当たりにしました。
完全に一人の収入で支払いできる金額まで減額しろとは言われませんが、
夫単独でも最低限生活できる程度くらいにまでは借入金額を抑えたいところです。
審査落ち理由⓰:外国人による申込
ほとんどの金融機関が日本に永住権を持っていないと、外国人の申込は土俵にも上がりません。
その理由はもちろん、帰国して購入物件に住まない可能性が高いからです。
永住権を持っていても、在日年数が短い場合にはかなりハードルは高いです。
審査落ち理由⓱:団体信用生命保険に加入できない
ほとんどの住宅ローンが団体信用生命保険への加入を必須としている制度融資であるため、
病気などで保険に入れない場合は何の弁明の余地もなく審査落ちとなります。
割と身近なところで引っ掛かりやすいのが“うつ病”です。
身体への影響は少なそうに見えますが、生命保険的には厳しい判定がされます。
とはいっても、フラット35をはじめ団体信用生命保険への加入は必須ではない住宅ローンも存在しますので、この理由だけで審査落ちとなった場合にはマイホーム購入の夢を諦めるまでではありません。
まとめ
以上、審査落ちとなる主な理由とその対策を紹介してきました。
何か心当たりがありそうなケースはありましたでしょうか?
もし実際に審査落ちしてしまった場合には、必ず金融機関にその理由を聞くようにしましょう。
よく審査落ちの理由を教えてもらえないという様なことを聞きますが、
相手も人間ですので、仮説立てして「こういう理由でダメだったんですか?」と聞けば答えてくれる担当者も結構います。
そして、実態を把握して、別の金融機関に再度申し込むのが賢い進め方です。
金融機関毎で審査目線は異なりますので、すぐには諦めず粘り強く色んな金融機関に申込をしてみると価値は大きいと思います(特にマイナーな理由の場合は、チャレンジ甲斐は大きいです)。
